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「まず基本が風で、補強は水か? いや……火でしたほうがこの場合は――――」
耳の高さで、後ろにひとくくりにされた長い黒髪が風に揺れる。
荒れ地には、二十代前半に見える青年が一人たたずんでいた。
風に乱れる黒髪には見向きもせず、目の前のことに黒髪の男――シュウは全神経を集中していた。
夏間近といっても、まだ夜は少し冷え込む季節。散歩がてら夜風に当たるのならば涼しく感じる程度だが、長時間外に居るとなれば話は別だ。
無論、仕事で隣町まで行くシュウの肩には、寒さ対策に外套がしっかりと羽織ってあった。
それは、何度となく使い込まれた、シュウにとっては愛着の品で、大切な物でもある。その土色の外套から伸びた手には、年齢に不釣り合いな杖がしっかりと握られていた。
だが、シュウ自身が足を患っている訳でもない。
旅用の品というわけでもない。
それは魔法使いには欠かせない、魔法を紡ぐ道具。
魔法使いの象徴とも言える物だ。
地面に垂直に立てられた杖からは、地を這う蛇のように光が伸びていく。一般人には解読不能な魔法文字が浮かび、幾何学(キカガク)な模様を流麗に描いていった。
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