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人も自然も豊かなここ、ソーフ国では珍しく、周りの大地は荒れ、石も多い。この、人の気が少ない地区の、更に北の外れに彼はいた。
適度にひらけた土地は、半分以上が荒れて、地面がむき出しとなっている。周辺には痩せこけた木が数本。明かりと言えば、少し離れた所に民家の光らしきものがちらほらある程度。
そんな淡いランプの光が彼の元まで届くはずもなく。
いま術者を照らし出しているのは、月明かりと魔法が生み出した光だった。
青く、赤く。
緑に、黄色。
魔法陣から伸びた光の帯は、一つとして同じ色を発しない。
切れ長の瞳は堅く閉じられ、唇からは永遠に続くかのように、力ある魔法の言葉が詠唱されていく。
誰一人として観客がいない中、彼の手により光は更に大きく舞い続ける。その、魔法を紡ぐ姿は、女ならずとも見入ってしまうほど神秘的だった。
その整った眉が歪むと、一瞬にして光は夢幻のように消え去った。
「くっそ、字間違えた! ああぁ面倒くせえ!」
魔法使いにとって、命の次に大事と言われる杖を地面に放り捨てる。続いて自身も、汚れなど気にせず寝転がった。
先程までの神秘的な姿は、一欠片も残っていない。
言うまでもないが、こちらがシュウの地である。
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