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言えるわけない。相手は前妻の厚子なのだ。厚子と浮気相手とは2年ちょっとで破局し、結局壮介に頼って来た。浮気されても厚子をずっと想っていた壮介は、躊躇いもなく許してしまった。離婚後に香水は変えたから、ルカが母親の匂いだとは気づくはずもなかった。
父親と自分を裏切った汚らわしい女と罵り、二度と自分の前に現れるな、と怒り心頭したルカに、ママと寄りを戻したとは、とてもじゃないが言い出せない。
今は話せる状態ではないのだ。
「ほんとに? ――わかった。とりあえず信じてあげる!」
ルカも自分の事を告げていない手前、強く追及するのは気が引けた。
ルカが鳴川と出会ったのは16歳の夏休み。
父親のお得意様で、家に連れて来た事が始まりだった。紳士的な大人の男性の優しさに、ルカは一瞬で恋に落ちた。いや、まだ恋だとは気付いていなかったのかも知れない。
ルカは父親に相談出来ない事を相談したいからと、父親には内緒で連絡先を交換した。それからふたりの妙な関係が始まる。
鳴川は、ルカには母親がいないのだから、本来なら妻に協力してもらうところだが、それはやめた方がいいのではないか、と感じていた。もちろん、この時、鳴川には下心なんてものはなかった。
図書館で勉強したり、ルカの父親が遅い時は一緒に料理したり、たまにドライブ行ったり、親子のような、兄妹のような、もしかしたら恋人同士にも見えたかも知れない。そんな関係が4年間続いていた。
ルカは母親の事でやけになっていた時期に鳴川に出会った。だから気持ちを鳴川に向ける事が出来た。そのお陰でルカは、横道に逸れずに済んだのかも知れない。
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