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今、ルカは空の上にいる。隣には、日本へ帰ったら旦那様になるであろう男性が、アイマスクをして眠っている。ルカは上空から窓の外の景色を見ながら、心の中で呟いた。
《輝くん、ルカは幸せになれるよね? 輝くんと過ごした日々が短過ぎて、あなたの死を受け入れられず、ずっと輝くんの姿を追い求めてた。ただいま、って玄関を開けて帰って来る気がして、何年も待っちゃった…………。でも、これからは隣に眠ってるひとが、ちゃんと抱きしめてくれると思うの。彼の腕の中もね、凄くあったかいんだよ。輝くんを忘れる事なんか出来ないけど、輝くんの分まで精一杯生きるから。だから見守っててくれる? 焼きもちとか妬かないでね? ルカを一生愛してくれるって約束は破られちゃったけど、ルカに幸せを運んでくれて、本当にありがとう》
ルカの頬に一筋の涙が伝った。
その時、窓を激しく叩く風の音とともに“ルカ”と叫んでる声が混じって聞こえた。
上空では、激しい風など吹いてはいない。穏やかな快晴の空を定刻どうりに飛行していただけだった。
幻聴? ううん。確かに輝くんの声だった。来てくれたんだね。やっと。
ルカは、窓にあたる微かな風の音に耳を澄ませながら、栄樹の肩に頭をそっと乗せると、ゆっくり目を瞑った。脳裏に焼き付いた輝明の事を思い出す。そして、告白された時から、愛し合うまでの、ひとつひとつの言葉達を、思い出に変換して行く。
『ありがとう、輝くん』
心で別れを告げた時、眠っているはずの栄樹の左手が、ルカの右手をギュッと掴んだ。
ふーっとふたりの上をよぎった微風は、窓をすり抜け、上空へと流れて行ったように感じた。
―完―
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