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叉路の怪
高校時代の話
秋の日は釣瓶落としの名のごとく、国道を離れた道は真っ暗だ。
また、電灯らも揃っても黄色く古ぼけて頼りなげな明かりばかりなのだ
『道があれば明るい、なんてのは都会人の思い込みだ』
という言葉が当てはまる、真っ暗な道路を足早に歩く。
暗い道は、恐い。
…キィ…カタン
聞き慣れない音に足を止めた。
そこは道が重なった小さな十字路で、道がカーブしているためにどちらが直線なのかと迷うような歪んだ叉路であった
そこにある、やはり古ぼけた黄色い明かりの下から
キィ、カタン
キィ、カタン
と音が繰り返されている。
『なんだろう?』
当然の疑問に眼を向けると電灯に一台、古い自転車が立て掛けてあった
そこから
キィ、カタン
という音が聞こえる
ああ、自転車か。
そう納得して歩き出そうとした時に、ふと
『ペダルは、風で揺れるほど軽いだろうか』
という疑念に駆られ、私は立ち止まった。
ペダルが逆さ回りに
キィ
と音を立てて自ら上まで上がり、そこからは力なく
カタン
と落ちるのだ。
ゾクリとした。
何故あのペダルは、自ら上に上がるんだ
何故ずっと、繰り返し上がり続けるのだ
私は眼を反らした。
見てはいけない
気づかれてはいけない。
気づいたことに、気づかれてはいけない。
足早に叉路を抜け、坂を登れば家まで100㍍程度。
ほっと、安堵しかけた瞬間だった。
…キィ…カタン
背後で音がした。
背中を這い上がる恐怖。
私は歩いた
気づいてることに気づかれぬように。
100㍍、早歩きで一分
振り返ったら、負けだ
キィ、カタン
キィ、カタン
キィ、カタン
キィ、カタン
音だけが背後から着いてくる。
いつもなら煩いくらいに鳴きわめく虫の声が全くしない。
異様な、無音。
歩く歩く歩く。
足が、家の敷地を越えた瞬間、空気が振動し隣近所のテレビの音、虫の声、遠くを走る車の音がし初めた。
私はあの音を振り切ったようだった。
一瞬、振り返った視界の端で折れ曲がりぐねぐねと揺れる人影を見た気がしたが『気のせい』にして家に飛び込んだ。
生きてる人間であっても叉路の真ん中で立ち止まれば自分が何処にいく予定だったか分からなくなることがある
憑いてくる、かもしれない
叉路でうっかり、立ち止まった日なんかには。
キィ…カタン…
なんて、人間だった死者も、また
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