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鬼と柊
建築関係の仕事をしていた母は、私の家に嫁に来て全部で5本もの柊を植えた。
節分にイワシの頭と柊を飾るのは、『鬼』といわれる良くない者達がイワシと柊を嫌うからだ。
2本は家の入り口に。鬼が入れないように。
2本は鬼門に。鬼が通らないように。
そしてひときわ大きな柊の木を裏鬼門に。鬼を逃がさないために。
これはまぁ、こんな話。
私が寝ていた2階の部屋からはその大きな柊が調度、足元少し前くらいの距離に見えた。
だから私は幼い頃から、火事にでもあって2階に追い詰められたらあの木に向かって飛ぼう等と計画立ててはその木を見ていた。
怪談は、私が中学生だった頃。私は柊に面した窓を体の左側に、足元には母のクローゼットがあるという形で寝ていた。
どうにもこうにも眠れない。眠れない挙げ句、カチカチと鳴る時計の音が気になりだしてドツボにはまってしまっていた。
ああそうだ
クローゼットの中にある真っ白な毛皮を触って遊ぼうかな
なんて思い立ち足元を見た時だった。
視界の中、床から30センチほど浮いた空中に真っ白な両足が立っていた。
ご丁寧に両足は、ひらひらと翻る裾から這えていて華奢な様子から直ぐに女性のものだと気づいてしまった。
ヒッ
なんて、声は出なかった。あまりにはっきり見えて怯えるよりも唖然とした。
ゆっくりと足に気づかれぬよう、布団の中に潜り込む。その瞬間に見えた足の主は首をくの字に曲げてうつむいて、かすかに見えた顔の部分はひどく黒くボヤけて見えなかった。
なんだろう
あれ、なんだろう
布団の中で考える。
息を殺して考える。
瞬間
全身に薄く火で炙られるようなチリチリとした軽い痛みが走り、右足首を締め上げるような感覚に驚き目を見開く。
さっきまで
私はクローゼットに足を向けていたはずなのに。
今私は窓に足を向け、右足だけが窓の高さにあがり、ずずずっ、ずずずっっと窓へ引き寄せられていた。
真っ暗だったはずの窓は照明を当てたかのように真っ白に光っていて、明るいはずなのに灰色を含んだような暗さを秘めてそら恐ろしい。
その明るさに削り出されたかのように、長い裾の服を翻した女性が、私の足をつかみ窓へと向かう後ろ姿が見えた。
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