青い目の君

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青い目の君

一人暮らしをしていた時の話。 町全体が緩い心霊スポットという町に住んで一年。ちょっとやそっとの怪現象には驚かなくなった頃。 ミシミシッっと全身を荒縄で縛り付けるような痛みに飛び起きた。 しかし私の体は跳ね上がることは出来なかった。 凄まじい金縛り 疲労からくる肉体的な金縛りにも、心霊的な金縛りにもよく会うが、これほど酷いものは滅多無い。 どんよりと粘るような部屋の空気と無音に等しい静けさにぼんやりと寝惚けながら 『ああ、何か居るな』 と私は考えていた。 鬼が出るか蛇が出るか、金縛りでぴくりとも動かない目線で暗い天井を眺める。 と、暗闇に鉛筆でシャッシャッとスケッチするような線が白く浮かび、歪んだ丸を描き出した。 …なんだあれは 線が増える 輪郭が生まれ半月型の眼が笑う 空中に天井を透かして 狐の面が浮いていた 私はついに厨二病を拗らせたのだろうか… 割と本気でそんなことを考えながら、いやしかし狐の面だよなぁとしげしげと眺めていた時だった ぐにゃりと いやに肉質的に口を端を挙げて 面が笑った 瞬間に込み上げてくる異常な恐怖 息が詰まり呼吸もままならない 今まで、頭半分が吹っ飛んだ幽霊を見たことがある。しかしそれは居るだけで怖いモノではなかった。 ベシャベシャと地を這う、真っ黒で異形のバケモノを見たことがある。しかしそれには知性がなかった。 だが、今目の前にいる面は、知性も恐怖も滴り落ちて沈む程に持っている。そんな気配がした。 どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう 頭の中でぐるぐると問いが回る。ニタリと開かれた狐の口の中に真っ赤で生々しい舌が見えた。 これは狐だ。狐だが良くない狐だ。びっしりと並んだ歯が白く尖りゲラゲラと笑っている。 狐が嫌いなものは犬と相場が決まっているが、今できることといったら わん! 動かない口を必死に広げ、声に成らない声で私は吠えた。今思えば馬鹿げていて滑稽だが、その時は必死だったのだ。 わん! わん! 昔話で狐の化け物は、犬の声が怖くて逃げ出したんだ。頭の中で、無理があるとは思いながら、できることなんか、それくらいだった
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