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しかし案の定
狐の面はなんでもないという素振りで、半月型の眼をさらに細めてニヤニヤと笑っている。
その時
視界の端をぽーんっと小さな影が飛び上がっていくのが見えた。
瞬間
狐はひどく驚いたような顔をして、人間臭い
『苦虫を噛み潰したような』
顔をするやいなや、線になりほどけるように消えた。
ゆっくりと起き上がり、電気をつける。
金縛りは完全に解けて、先程まで全くしなかった外を走る車の音が響いていた。
さっき飛んだのは何なんだ。
散らかった部屋の中を見渡すと、調度小さな影が落ちた辺りにぬいぐるみが一つ転がっていた。
それは犬のぬいぐるみだった。
小さい頃から怖がりだった私は、小さい頃から沢山のぬいぐるみを持っていた。
そのぬいぐるみは、中でも一番の古株で、一番のお気に入りだった。
量産品だが、最後の仕上げだけは人間の手で…というのがウリの結果、私のお気に入りのソレは、ちょっと首を傾げているのがトレードマークで
私は一人暮らしに連れてきていたのだ。
ああ、お前か
私は対して驚かなかった。
怖いときいつも抱えて持ち歩いていたそのぬいぐるみは、もう所々ボロけていたが、ハスキーを模した青い眼は、ある時から買った当初より色が濃くなって
枕元にあったはずが、朝には何故か机の上に座っていたり
家に来る友人らに
『視線を感じると思ったら、あの犬だった』
なんて言われたりする、不思議なぬいぐるみだったのだ。
モノは、長いときが経つと九十九神になって
猫は寿命より長くいきると猫又になって
持ち歩くこと20年弱
ぬいぐるみの寿命なんてとうに超えたソレは、番犬さながらに狐に飛びかかったのだろう。
今も、私の枕元に居る。
ちょっと首を傾げた姿で
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