アメジストの夢

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天然石の話をしているのだから、まぁ一つくらい天然石に関する不思議な話をするとしよう。 大学時代の話 「ねぇ、図書館に寄っていい?」 立ち上がりかけた瞬間、友人がそう声をかけてきた。いいよ、と答えて歩き出す。 「探してる本があるの」 ふぅん、そう 歩きながら、いつもの仕草で鞄を肩に担ぎ上げる友人の手首には、彼女一番のお気に入りのアメジストのブレスレット 目についたのはブレスレットの数ヵ所に並ぶ鮮やかな青い石。 おや、あんなデザインだったろうか。私が知らない間にまた、ブレスレットを組み換えたのか。 きっとそうだ、だって中心にはいつも通り、彼女一番のお気に入りのアメジストがある。 一瞬、そんなことを思った。 図書館に入り、ゲートを抜け、ふらふらと入り込んだ棚は普段なら来ないジャンルの棚で、本を探す彼女の横で私はぼんやりと背表紙の見慣れぬデザインを眺めていた。 「あったあった」 私より小柄な彼女が、少し背伸びして本を取る。 布地の白い本に、背表紙には青い文字。少し小さな本だった。軽く開いて中を覗く。 じゃあいこうか 振り返って歩き出そうとした瞬間、縫い止められたように足が動かなくない。 驚き、慌てて友人に向き直るとそこは図書館ではなく、ひたすらに真っ暗な空間だった。 「ごめんなさいね」 先ほどまで友人が立っていた場所に、白い小さな本を持った見知らぬ女性が立っていた。 「教えてあげて。 覚えてられないから」 真っ白な髪に…それ以外の容姿が思い出せない。ただ、ドールのように少しばかりキツめの、しかし美しい顔だったような気がする。 状況が飲み込めない。 いつもなら何か叫ぶくらいするのに、動作も思考もひどく緩慢でなんだかよく分からないのだ。 そんな私を見て、女性は少し笑った 「そんなものよ」 と。 「有り得ないことは、あり得るかもしれないし、あり得ることは、有り得ないかもしれないの」 ざらざらと、真っ暗な空間が狭く狭くなっていく。 「そんなものよ」 目覚める瞬間、遠く遠く呟かれたあべこべの言葉がやたらと胸に突き刺さって、起きると同時に忘れないよう頭に復唱させた。 夢、だったのだ
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