鈴に看護師

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鈴に看護師

つい先日の話である 夢を見た。 病院の廊下を歩いている。ふと、呼び止められた。 『ねぇ この空き部屋、変に寒いの。何かいるのかしら、入ってみて』 何かとは十中八九幽霊だろう。面白そうだ、と夢の中でさえオカルト好きな私は、三番目の個室に歩を進めた。 中央にあるガランとしたベッド、湿気を纏い絡み付く冷たい空気。 不味いな、と思った これは夢だ 夢だが夢じゃない 不味い この部屋から逃げ出さなきゃ、ここは何かの夢の中だ 踵を返し部屋から駆け出す。翻るカーテンの向こう、一人の看護師が背を向けて立っている。腕には赤ん坊を抱いて。見た瞬間の確信 この看護師、生きてない!! 理由はわからない。しかし死者の情報は魂だけだからか、いつもダイレクトに伝わる。 背中から伸びる冷たい気配は、目に見える奇妙な痩せた無数の白い手になっていた。看護師の隣を駆け抜けねば逃げられない。私は走った。 ゆっくりと看護師がこちらを振り返る。顔が無い 怯んだ瞬間、私は腕らにより病室に引きずり込まれた。 目が覚めた。 手が震える。金縛りに震え、暴れてめくれた上掛け。手は力一杯下掛けを握りしめて動かない。 横に、さらりと黒髪が揺らぐ。顔の無い看護師が、横にいた。 ヂリヂリヂリッっと、廊下から鈴の音が響く。間隔無く鳴り響く音は、もはや目覚ましのベルのようだ。私はその鈴の音の正体にすぐ気付いた。伊勢神宮で買った御守り鈴の音だ。 這うような気配を漂わせ、何かが移動するのに合わせて鈴の音が廊下を進んでいく。姿は見えないのに、その何かの手も足も数がデタラメなぐしゃぐしゃとしたナメクジに似た姿が頭の裏側に浮かび上がる。 【身代わりになって、厄を受けてくれることもあるんだって】 咄嗟に浮かんだのは、鈴を一緒に買った人の言葉。何かは、伊勢の鈴を私だと思い込んで連れ去っているのだ。 早くいけ!早く! 頭の中で必死に祈る。何か、はゆっくりゆっくり、とまさにナメクジのように玄関に向かいそして気配が外へと消えた。 (あ…) 耳元で看護婦が囁いた。吐息に私の髪が揺れる。 (彼は、いないわ…) ふわりと身を起こす気配がして、最後にめくれた上掛けを私にかけて、彼女もまた、消えた。 今になって思う。彼女は、あの怖い何かの見張り番をしているのではないか、と。夢の中では病室の前に立ち、声色は優しげで、体を伏せ私を隠してくれていたのではないのか 看護師になった優しい生前の心のままに、今も、多分。
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