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「マホリには解らないのかもね。」
その言葉を残して、ミナミは図書室を去っていった。
去り際にミナミは一度立ち止まったようであったが、振り替えることなく図書室を後にした。
一人残されたマホリは、途中となっていた本を読む気にもなれず視線を窓の外へと傾けた。
「疲れた…。」
思わず口から出た呟きは響くことなく消えていく。
窓から見える風景は、今にも雪が降りそうな真っ白さだった。しんとした外の空気と図書室のもの悲しさが普段好きであったが、今はあまり好ましくなかった。
ここの空間だけが世界から隔離されているような錯覚を感じた。
マホリは先程のミナミとの会話を思い返す。
ミナミの言った通り、マホリはミナミの気持ちが解らなかった。
正確にはミナミが抱いた気持ちも、ミナミを傷つけた人物の気持ちも解らない。
自分の本心を偽る意味も、人を傷つける意味もマホリは理解できなかった。
マホリはいつ頃か他の人と一線を介して自分が存在しているような感覚があった。マホリが放つ言葉や行動が他の人を困惑させることに気づいたからである。
自分が正しいと思うことは、何故人に伝わらないのか。
沢山の人がいる世界で過ごすうちに感じるようになった息苦しさは日に日にマホリを苦しめた。
しんとした空気のなかで、マホリの思考は更に深く深く沈んでゆく。過去の記憶を辿り、その一つ一つに思いを馳せる。
けだるいような、悲しいようななんとも言えない疲労感が精神をゆっくりと蝕んでゆく。
マホリはゆっくりと眠りに落ちていった。
「この世界はなんて煩わしいんだろう。」
「なんで優しくないんだろう。」
「あぁ、この世界はとても苦しい…。」
「この世界が…。」
最後の言葉が浮かぶ前にマホリは意識を手放した。
遠く離れた場所で何かが壊れるような音が聞こえた気がした。
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