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梅雨明け前の暑い日、6年ぶりに逢った年下のボーイフレンドと、別れ際にキスをした。
彼とは逢うごとに、小さなキスを交わしている。まるで約束事のように、当たり前のように、彼は私の唇をかっさらう。
けっこうずるい。
でも、私と中澤昌尋の関係は、キスから始まったのだから、きっと抗えない。
「お姉さん」
アキがそう声をかけて来たのは、初めて出会ったエレベーターの中。名古屋の駅から程近いビジネスホテル。
「こんばんは」
私は二十歳で役者の卵、アキは十七歳の高校生だった。
タバコを買いに出かけた私を、丁寧に5歩後ろからついて来た。
「お姉さん、どこに行くの?夜中だよ」
「どこまでついて来るの?夜中だよ」
5歩分の距離を隣まで縮めて、アキはニッと笑った。タバコの自動販売機の前まで並んで歩いて、私は蒼白い明かりの灯る自販機を指差した。
「私の目的はここ。キミはどこまで?」
「俺はここ。お姉さんまで」
彼は私を指差した。
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