ファーストキス

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 アキは鳥羽から、予備校の模試を受けるために、そのホテルに、友人と二人で泊まりに来ていた。  私は伊勢まで一人旅を満喫して、その帰りに、短い期間だったが惚れ合っていた男と別れて来たところだった。彼女持ちのその男との、秘密の遠距離恋愛にはいささか疲れてしまったから。ただ最後にと、つい先程までこのホテルのこの部屋のベッドに転がっていた。少しだけ悪いコトもしながら。シングルの狭い空間で、ずいぶんと暑かったのが最後の想い出。  そしてどういうわけか、そのベッドの上に、少年二人と乗っかって、ホテル案内のファイルをテーブルに、缶ジュース並べて灰皿置いて、明け方近くまで世間話と青春語りに興じていた。  要するにナンパだった。  私は取り立てて美人でもないのだが、少年二人には美人に見えたらしい。当時、関東での流行りはゆるくパーマをかけたロングヘアだったが、関西での流行りはショートヘアだったから、私の長かった髪が物珍しく、美しく錯覚さてたのではないかと思う。だけど、普段から「もう少し綺麗なら売りようもあった」とオーディションも落ちまくりの私は、悪い気はしなかったのだろう。先に私を部屋まで送ってくれた上で、友達連れて部屋を訪ねて来た、本来ならヤりたい盛りの少年を、いとも容易く部屋に入れてしまったのだから、私もどうかしてる。  アキの友人の方が「もう眠いわ」と先に自分の部屋に戻って行った。忘れていたわけではなかったが、二人は大事な模試を翌朝に控えていた。にも関わらず、アキはいつまでも眠ろうとはしなかった。  ここに泊めるわけにはいかないので、宴のお開きを報せる為にも、ベッドの缶ジュースを取り払っていた。  その途中で、不意を突かれて空いたベッドに押し倒された。  やっぱりコレが目的だったか……  自販機の前で、彼が指差した目的が私だったのを思い出した。
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