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『灯子ぉ、聞いとるんか?』
「……なんだっけ?」
『小説や。続き書いてや。正直な灯子の気持ちでな』
「やなこった。書いて欲しくば、住所と家の電番と家族のフルネームを提供しろ」
『勘弁してよ。そんなん聞いて、どないするんよ?』
「夏に中元送って、ついでに小説プリントアウトして送り付けてあげるわ『お世話になってますう』って」
『アホな事、すんなや!』
「時効でしょ、もう。あれから……何年だっけ?11年!?12年!?」
『……意地悪いで、灯子!……変わらんなあ』
あの日以来、アキとは逢っていない。
アキとの遠距離不倫もなし崩しに壊れた。
……というか、私がまた離婚して、好きな人が出来て、アキに一方的に言ったのだ。
「二度と逢う気はない。二度と電話してくんな!」
それからまた10年と少し。私が家を空けていた期間も懲りずに実家に電話をし続けていたアキは、ある日、私が出た電話と遭遇してしまったのだ。
めんどくさいことこの上ない。
今更微塵も妬くことはないが、ずっと変わらぬ奥様とラブラブで、お嬢様も三人に殖え、仕事も好調の順風満帆の人生を送るアキに、私がしてやることなどないのだ。
逆に私は言ってやったもんだ。
「浮気の片棒担がせるような事、やめてくれる?履歴を消されるような電話にもメールにも、もう応えないから」
すっかりやさぐれてしまった私は、もうアキの前で女神を演じるのも止めてしまったのだ。
なのに、アキは変わらぬテンションで電話をしてくる。
「まだ昔の方が優しかったですか?すみませんね!こんな意地悪女で」
『変わらんよ。灯子は』
「アンタの女神はもう死んだのよ。期待されても困るわ」
『はいはい。……でも死んどらんよ。女神じゃのうても、灯子は灯子や。ずっとやで。もう20年以上やろ?灯子はずっと変わらんで灯子や。今もな』
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