5人が本棚に入れています
本棚に追加
私はアキが好きだった。弟みたいで可愛かった。
ある時アキは相談を持ちかけてきた。
「彼女とうまくいかないんだ。何となくつきおうとるんやけどな、俺の方に彼女より好きな人が別におるんせいやとは思とる」
ふーん、と聞き流すつもりだったが……嫌な予感が走った。受話器から伝わる温度がそれを知らせていた。そして、嫌な予感ほど的中するものだ。
「俺な、灯子……さんのことが好きだ」
しまったと思った。
アキの気持ちの中で、私は予想以上に育ったようだ。さほど知りもしないのに、特別な存在に育て上げ恐らく、開花させたのだろう。
それは私にしても同じ事だったが、アキの想いは私のそれより重かった。
想定外だった。
好きだと返してもよかった。
だけど、私には恋人がいた。それはアキも承知のはずだった。それでも告白してくる真意がどこにあるにしろ……
私には、心のよりどころを別に持ちながら、オマケの遠距離恋愛を強いる事は、いくらなんでも出来なかった。
アキと遭った去年の夏、私はそれに疲れてリタイアしたのだ。アキに気を持たせてのほほんと幸せを築くなんて、アキがいいと言っても、私は嫌だ。
そんな器用じゃない。
そこまで私はアキに情熱を傾ける事は出来ない。
答えは躊躇わなかった。
「ありがとう。でも私も別に好きな人がいるから、アキとはうまくいかない」
100点満点の返事をした。
アキとの電話が遠くなった。
最初のコメントを投稿しよう!