ファーストキス

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 私はアキが好きだった。弟みたいで可愛かった。  ある時アキは相談を持ちかけてきた。 「彼女とうまくいかないんだ。何となくつきおうとるんやけどな、俺の方に彼女より好きな人が別におるんせいやとは思とる」  ふーん、と聞き流すつもりだったが……嫌な予感が走った。受話器から伝わる温度がそれを知らせていた。そして、嫌な予感ほど的中するものだ。 「俺な、灯子……さんのことが好きだ」  しまったと思った。  アキの気持ちの中で、私は予想以上に育ったようだ。さほど知りもしないのに、特別な存在に育て上げ恐らく、開花させたのだろう。  それは私にしても同じ事だったが、アキの想いは私のそれより重かった。  想定外だった。  好きだと返してもよかった。  だけど、私には恋人がいた。それはアキも承知のはずだった。それでも告白してくる真意がどこにあるにしろ……  私には、心のよりどころを別に持ちながら、オマケの遠距離恋愛を強いる事は、いくらなんでも出来なかった。  アキと遭った去年の夏、私はそれに疲れてリタイアしたのだ。アキに気を持たせてのほほんと幸せを築くなんて、アキがいいと言っても、私は嫌だ。  そんな器用じゃない。  そこまで私はアキに情熱を傾ける事は出来ない。  答えは躊躇わなかった。 「ありがとう。でも私も別に好きな人がいるから、アキとはうまくいかない」  100点満点の返事をした。  アキとの電話が遠くなった。
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