8人が本棚に入れています
本棚に追加
(どうせ、君も僕から逃げるんだ)
けれども、そんな少年の思いとは裏腹に少女は身じろぎもせず、ただ、その長い髪が彼のおこした風に舞っただけだった。
それと同時に彼女の深い藍の瞳と彼の闇色の瞳の視線がぶつかる。
両者は見つめ合っているかに見えたが、悪魔には違和感があった。
ためしに、彼女の目の前で手を振ってみるが、瞬き一つしない。
「見えて、ないの?」
少女はその声にようやく驚いたようで、瞬きを数回くりかえす。
「こんなに近くにいたのね、びっくりした。」
そして、優しく彼にほほえんだ。
今度は悪魔が驚く番だった。
久しく人間に笑いかけてもらったことなどなかった。
最初のコメントを投稿しよう!