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「……うおっ!? 出たっ!! 今、芽が出たよ!!
すっげー、出る瞬間見ちゃったよ、お母さん!」
ああ、ひーちゃんだ。
一年で随分大人っぽくなった。
今年から高校生?
セーラー服、可愛いな。
如雨露から注がれた水が、身体を潤す。力が湧いて来る。
「向日葵の水遣りもいいけど、ひーちゃん早く行きな、また遅刻ギリギリじゃん」
あ、お母さん、髪型変わった。
何だか色っぽい。大人の女、って感じだ。
「何でいつもギリギリまで出掛けないんだ? ひーちゃん」
お父さん、ちょっと太った? でも元気そう。
髪、真っ白になったな。
「わざと出発遅らしてんの!
今日こそは切るよ、自転車通学最短記録、自己ベスト十三分!!」
「……ひーちゃん、危ないことしないで、早く行きなさい」
あ、お父さん溜め息吐いた。
ひーちゃん、水はもういいよ。
ひーちゃん、お父さん怒ってるよ。
「ひーちゃん、……陽向!!
早く行きなさい!」
「……あ~あ、センセの『ひなた!!』が出ちゃった。朝っぱらからお父さんお怒りモード全開だよ? ひーちゃん」
「はあ~い。
そんじゃ、爆走陽向号、発進します!」
自転車に跨がり、敬礼ポーズをビシッと決めるひーちゃん。
……全然反省の色がない……。
「あ、向日葵の水遣り、あとお願い!
あたしの名前とおんなじ花だから、精魂込めて、ヨロシク!!
よっしゃ、今日こそ十三分!!
行って来まーす!!」
……うおぉっ、速い!!
本当に自転車か!? あれ……。
あ、今度はお母さんが溜め息をひとつ。
「せっかく奇跡的に心臓良くなったってのに。
ひーちゃんのあの暴走癖と落ち着きのなさ……やっぱ陽平の血かなぁ……」
「何ヒトのせいにしてるんだ。九十九パーセントは確実に絶対にお前の血だろ、あれは」
ふふ、相変わらずだ、お父さんとお母さん。
俺は芽の先をもぞもぞと揺らして笑う。
「ま、大丈夫っしょ、ひーちゃんには『向日葵の神様』がついてっからさっ!」
……えっ、お母さん、それ俺のこと? 俺のこと!?
「う~ん、そこが不安なんだよ……。かなりヘタレな神様だったからなあ」
……ヒドイよ、お父さん……。
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