晩夏の夢 ~エピローグ

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あれから俺は。 毎年夏になると、この庭で、まずは種から顔を覗かせる。 短い夏、この庭の一部になって、根を張り、太陽を浴びて過ごす。 夏の終わり、俺は沢山の種に分かれて、また暫くの眠りにつく。 繰り返し、繰り返し。 種になるたびに、俺は分散し、意識が薄まっていく。 芽を出すたびに、俺の全ては向日葵に同化していく。 ただ無心に太陽を指向する『向日葵』そのものになって、 次第にそれ以外の感情が、消えていく。 何も考えなくなっていく。 繰り返し。繰り返し。 土から芽を出し、 太陽を浴び、 青空に向かい背を伸ばす。 葉を揺らし、 種を蓄え、 枯れて、土に還る。 繰り返し。 繰り返し。 お父さんのお葬式。 お母さんの再婚。 もうほとんど意識のない夏が、また来る。 俺は今日も太陽を浴びて。 おぼろげな視界のすぐ傍に、子供を抱くひーちゃんがいたような、気がした。 ああ、『永遠』って本当は、こういうことなのかもしれないなぁ……。 うん。 俺は今日も太陽に向かう。 青空に背を伸ばす。 お父さん。 お母さん。 ひーちゃん。 ありがとう。 俺、向日葵になったよ。 Fin.image=511013118.jpg
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