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「あれは、北山郡(ほくざんぐん)の蒼陣(そうじん)だ」
義延の言葉に翠芳は目を見張った。
「おお…!あれが、『虎斬(こざん)の蒼陣』か…!」
翠芳は満面の笑みを浮かべ何度も頷いた。
なるほど、確かにあの猛々しい様は、虎斬の異名に相応しい。
その昔、斉陵に伯昇(はくしょう)という名将があった。
槍の名手にして天下無双と詠われた伯昇は、ある時その槍で一頭の大虎を仕留めた。
以来伯昇は「虎斬将軍」と呼ばれ、その死後、槍の名手にして勇猛な武人を虎斬と称するようになった。
蒼陣は農民の子でありながらその秀でた武芸で、斉陵の北方・北山郡で大使府の騎馬将軍にまで登りつめた男だった。
ひとたび馬に跨がり出陣すれば、その大槍で敵将をことごとく討ち取るという。
まだ二十六歳の青年ながら、斉陵のみならず大瑞原にその名を轟かす武人だった。
どおおん…!
「始まった…!」
試合開始の太鼓が打ち鳴らされて、翠芳は身を乗り出した。
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