冬が寒くってほんとによかった。

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 今年もこの街に冬が訪れた。今年で19度目の季節の巡り。僕の父と母はこの街に産まれ、育ち、そして僕も同じ道を辿る。僕が通う高校の教師に、父の同級生がいる。商店街の八百屋さんは、母の小学生の頃からの幼馴染の家だ。その息子が僕の同級生。この街では、周りは皆顔見知り。すごく閉ざされた街だ。  受験生となったこの年、僕はこの街で働き始めることを決めた。働き始めると言っても、アルバイトで生計をたてるだけ。つまりフリーターだ。  これまた顔見知りの焼肉店で、高校入学当初からアルバイトを始めていた。個人経営のお店で、従業員も僕を含めて3人。僕の同級生の父が店主とその妻、そして僕だ。3年弱勤めているおかげで、月に2,3回と少ないが、一人でお店を開くこともあった。そして、時々ではあるが、受験戦争真っ只中の同級生が店を手伝うこともあった。  僕がなぜフリーターという選択をしたか。格好つけて言えば、夢を追うため。でも現実は、今のこの環境が居心地が良すぎて、ここから抜け出したくなかったから。毎朝のんびりと学校へ行き、のんびりと授業を受け、放課後は熱心に部活動に取り組む。アルバイトのある日は部活を休み、暇ができた日は丘に登りのんびりと趣味に没頭する。こんなありふれた日常が僕は幸せだった。
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