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禁書が為の少女
愛して、愛して、愛して――。等間隔で繰り返される呪詛のような哀願にチヴェッタは頭を振った。僅かに痛むこめかみを押さえて、一気に水を飲み下す。愛して、愛して、愛してと囁くそれはもう慣れた声ではあったが、まともに思考することが出来なくなる。手元の新聞を畳み、全ての感覚を閉ざすつもりで強く目を瞑った。
「――……ッタ、オイ、チヴェッタ!!」
どうやらすっかり寝入ってしまっていたらしい。チヴェッタは眠い目を擦りながら、たしたしと己を叩いている肉球をつついた。
「起きてるよ、ロマンジェーレ。うるさい」
「人が! いや今猫だけど、人が! 情報収集に勤しんでやってるのに! お前はのんびりお昼寝とか! どういう了見だお前!」
「うるさい」
「無表情やめろ」
目の前で顔を洗う黒猫を見つめて、チヴェッタは不意にへにゃりと表情を崩す。黒猫は気味が悪いとでも言いたげに顔を洗っていた前足を下ろすと、お気に入りの窓際へと場所を移す。ロマンジェーレ、と呼びかけられた猫は不機嫌そうに片目だけ開くと、噛み付くように言葉を続けた。
「お前の予想、大体当たってるよ」
「うん、僕が外すわけもないからね」
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