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ハナ太郎の見付けた穴場で花火を見た帰り道。
「魅月先生」
「ん?何?」
「今日は楽しかったです。ありがとうございました。」
足を止め、隣を歩く魅月先生にハナ太郎は律義にペコッと頭を下げる。
「ハハ、それこっちの台詞。ハナが穴場に連れてきてくれたんだろ?」
「でも、先生が一緒じゃなかったら一人で見てました。一人で見てたら、こんなに楽しい気分になれなかったです。
ですから、一緒に来ていただいて、ありがとうございます。」
(そりゃハナの頼みなら来るさ、とか言ったら、またショートしちゃうかな…)
「だから、それはお互い様だって(笑)w」
ハナ太郎に気付かれない程度に苦笑を漏らし、魅月先生は頭を低くしているハナ太郎の頭を撫でた。
「でも、ありがとな。誘ってくれたのが俺で嬉しいよ。」
そう言って魅月先生が微笑むと、ハナ太郎は暗がりでも解るほど赤面していた。
「本当、ハナは良い子だな──。」
可愛い、と伝えたらまた慌ててしまいそうなハナ太郎の為、魅月先生は“良い子”と言葉を選ぶ。
「……。そんな事ないですよ。」
「?…ハナ?」
いつものように慌てた様子で否定する事なく、低い声のトーンで答えるハナ太郎を魅月先生は見返した。
見ると、塞ぐような面持ちのハナ太郎がいた。
ハナ太郎がそんな顔をしたのを初めて見た魅月先生は驚く。
「どうしたんだ?ハナ──」
「……魅月先生…。」
トボトボと歩き出しながらは、ハナ太郎は魅月先生に声をかける。
「私、本当に“良い子”なんでしょうか?」
「?…何いってるんだ、当たり前だろ?」
そう答えると「そうなんでしょうか…。」と、魅月先生の言葉を聞き入れる様子無く、ハナ太郎は低く答えた。
(本当、どうしちゃったんだ…。ハナ…)
ハナ太郎の背中を見詰めながら思考を巡らせる魅月先生とハナ太郎の目の前の視界が開け、獣道を抜けた二人の前に浜辺が広がった。
遮るものが無くなった空には普段見られないほど満点の星が無数に瞬いているが、ハナ太郎はそれにも気が付かない様子でトボトボと歩いていくと、波打ち際にしゃがみこんだ。
捨てられた犬のようである。
「もし──」
ハナ太郎はポツリと、波音に消え入りそうな声で呟いた。
「もし本当に“良い子”なら、…どうして主様は連れていって下さらなかったのでしょう…。」
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