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「主…?」
(そう言えば、確かそんなのがいたな…。)
半ばぞんざいに思い出す魅月先生。
「ハナの主様の事か?」
確か、始めて会ったとき、ハナ太郎が魅月先生を見て「似てる」と話していた気がする。
「……。主様もずっと、私の事を“良い子”と仰って下さいました。
“立派な配下なんだから胸を張って良い”と…、私は、何の力も無いただの狐でしたから、今のように沢山の事ができませんでしたけど、……主様にそう言っていただけるのがとても嬉しくて、自分でできる事は何でもしました。」
そう話すハナ太郎の背中から、幸せだった、と言う思いが伝わってきた。
自分の知らないハナ太郎の過去に、魅月先生は「そうだったのか」とだけ答えた。
「…。でも、私達の一族が滅んでしまって…、主様はその事で天にいる凄く偉い方から罰を受けました。
それでもしばらく一緒にいさせていただけたのに、主様は突然、ご自分のお力の一部と引き換えに私を今の姿に変えて……、もう、会うつもりはないと言って姿を消されました。」
「それでハナは焔に来たの?」
コクン、とハナ太郎は頷いた。
「主様が、“お前の居場所は用意して在る”と。
“そして、もし自分を見付け出せるような事が在ればまた会ってやる”とも仰ってました。」
(勝手だな…)
姿も知らない相手に、ハナ太郎が悩まされていると言う状態から、魅月先生はつい恨みがましい思いでハナ太郎の主様とやらに内心悪態を付いた。
「でもそれってさ、ハナがしっかり勉強するようにわざと言ったんじゃないか?」
「そうかもしれません。いえ、きっと、そうなんです。
…ですが──」
ハナ太郎はそう言うと言葉をつまらせた。
肩の震えから、後ろから見ていても、ハナ太郎が泣いているのが解る。
「…いつまでも一緒に、……お側にお仕えしたかったです…っ」
ギュッとハナ太郎は身体を縮めた。
「私には主様しかいなかったのに…!」
ただの狐が仕えるにはこれ以上望み様のないほどの相手だった。
その事に誇りを持っていた。
生きる意味その物だったのに。
「どこまでもお供したいと、主様だって知ってたのに、なのに置いてかれてしまったら…、不安になりますっ…」
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