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「あ、氷華!長かったね~次の任務?」
広間に入った私を出迎えたのは、笑顔の狂華。
私は周りを見渡す。
……常に片時も離れず一緒にいる闇夜が見当たらない。
「闇夜は?」
「闇夜は外!最近個人でやる任務も増えてきてるんだぁ」
「……へぇ」
私は狂華を見つめる。
いつもにこにこと笑顔を振り撒く狂華。
その人懐っこさから、私以外の殺し屋とも仲が良い。
そして、闇夜というパートナーもいる。
―――ジョーカーが言っていたことは、狂華みたいになれということなのか?
「どうしたの氷華?そんなに見つめないでよ~」
「……あ、うん」
照れたように笑う狂華に、私はハッと視線を逸らす。
どうやら無意識に凝視してしまったようだ。
私は下を向き、そしてぽつりと声を洩らした。
「……私はなれるのか、狂華のように」
「ん?なぁに?」
「いや」
ゆっくりと狂華に視線を戻し、薄く笑う。
「私、暫く任務で別の場所に住むんだ」
「えっ……」
狂華は驚きの表情を浮かべる。
「珍しいね、氷華。どこに行くの~?」
「天音学園」
「あまっ……学校じゃん!」
「うん。ジョーカーからの新しい任務」
「そっか……へぇ……」
『珍しいこともあるもんだね』と、狂華は笑う。
そして、私の手を握り締めた。
「頑張ってね氷華!学校って、そんな悪いもんじゃないからさ~。きっと楽しめるよ」
「……うん、ありがとう」
狂華に薄く微笑み、私は広間を後にした。
―――暫く聞けなくなるこのざわめきを、しっかりと耳に焼き付けながら。
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