その少女、殺し屋

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目の前のこの男、名をジョーカー。 本当の名は知らない。 外人めいたハッキリとした顔立ちに、白い肌。色素の薄い髪。 見た目30代前半といったところだが、果たして何歳なのだろうと、たまに考えたりする。 彼はホーンテッド日本支部を纏めるボスであり、私達殺し屋に任務を言い渡す役割を担っている。 ジョーカーは相変わらず柔らかい笑みを浮かべていた。 「俺は良い名前だと思うよ、藍。その青みがかった髪にぴったりだ」 「……“氷華”という名は、貴方が付けたんでしょう。矛盾してます」 「ハハッ。そりゃあ、仕事中に本名なんか名乗ったらすぐに足がつくからねぇ」 この男は……。 私は溜め息を吐いた。 そう、私の本当の名は芦屋藍(アシヤ アイ)。 しかし、殺し屋になったあの日から、私は常に“氷華”と名乗っている。 ……最後に本名を名乗ったのはいつだろうか。 「で、報告は?」 私は、ジョーカーの言葉にハッと意識を取り戻した。 そして顔引き締め、いつもの調子で口を開く。 「×○ビルの地下駐車場より明石達郎を排除。死体は処理班に回収を依頼しました」 「んー、了解。目撃者は?」 「いえ、人の気配はありませんでした」 「そっか。流石藍だね」 「いえ」 ジョーカーは緩く微笑む。 ……その中に哀愁が漂ってるように感じるのは、私の気のせいだろうか。 _
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