プロローグ

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 ある暑い夏の日。せみの声が鳴り響いている。  歩いているだけで、汗がにじみ、すぐに体中が汗まみれになる。こう暑くなると涼しい店の中に入って涼む人も少なくない。 「あぁーもう!! あっつい!!」  そこらじゅうに響くような声が聞こえた。鳴り響くような少女の声は、空しくも車の音でかき消された。 「うるせぇ、黙れ」  つり目の少年の不機嫌そうな言葉に長髪の少女は口を尖らせ、睨み付けて地団駄を踏みながら文句を爆発させた。 「だって、あっついんだもん! それより、なんで店から出たの!? せっかく涼んでたのにさ、私を引っ張って無理やりにも外に出したわけ!? 外に出れば、めっちゃ暑いことわかるでしょ!!」 「小百合(サユリ)、落ち着け。人に迷惑だろ。それにカップルのケンカに見える」  冷静な少年に少女、小百合は睨み付けながら辺りを見た。通行人は幸いにも少ないが、じっとこちらを迷惑そうな顔をして見ている通行人が目に見えた。小百合は声を低くさせた。 「別にいいでしょ、カップルに見られても。あのね、祐次(ユウジ)。私はまだ涼みたかったんだよ?」
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