菜穂

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結局昨日は柱の陰で膝を抱え込むようにして眠った。 立ち上がりそっと戸を開ける。 あまりの眩しさに目を細めながら左右を見渡したが彼はいなかった。諦めてくれたのだろう。 ただ今日は妙に腐敗臭がする。どろっとした甘いような酸っぱいような独特の嫌な臭いだ。 その臭いはゲームセンターの中から特に強く溢れ出している。 どんよりと暗いその中から何か湿った物を引きずるような音がした。そちらを見ると電源の切れて錆び付いたゾンビゲームが埃を被っている。 ゲーム機の向こう側で何かがずるり、と動いた。 それはゲーム機の横を通って足を引き摺りながら歩いてきた。 腐敗臭が酷くなってきた。それは茶色く表面が溶けたように腐った人のようなものだ。 それはまるでゾンビゲームに出てくるゾンビのようだった。隣にゾンビゲームがある今の状況は酷く笑えない冗談のようで顔がひきつった。 しかもよく見るとそれは1体や2体ではなくかなり沢山いるようだ。 腰のショットガンを引き抜き構える。昨日初めて引き金を引いた時に酷い音と反動があったので引き金にあてがった指が震える。 そいつらは濁った瞳でこちらを確かに認識したように感じた。ずるずると足を引き摺りゲーム機の向こう側から出てきた。 音や反動がどうだとか言っている場合ではなさそうだ。覚悟を決めて指に力を込める。 昨日と同じ破裂音と強い反動があったがそれでも何度も引き金を引いた。 覚悟を決めたからか昨日に比べるといくらかマシな気がした。 飛び出した弾はだいたい当たったと思う。そもそもあれだけ目の前に沢山いればどれかに当たるのも当たり前なのかもしれないが。 そいつらが動かなくなる頃には腕は酷く痺れまともに動かせなくなっていた。 耳も膜がかかったようで篭ったようにしか聞こえない。 もしかしたらまだ奥に同じようなモノがいるかもしれない。 なるべく急いでゲームセンターから離れた。 ショットガンは熱を持っておりベルトに挟むことはできそうにもない。
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