第一章

2/9
前へ
/32ページ
次へ
「出所だ、出ろ。」 促されて、刑務所を出る。太陽が眩しい。雨か曇りが良かった。燦々と攻撃する太陽は私の肌には会わない。 だが、そんなことはどうでも良い。 あれから10年。言葉にすればたった二文字、しかし味わってみると異様に長かった。 社会の流行りには全くついていけないのだろう。政治の変動は刑務所の中でもある程度把握はできた。 とは言え、そんなもの私の目的には何の意味も無いのだが。 10年経っても朽ちない思いがある。刑務所にいる間何度か発狂しかけたが、この日のために大人しく賢く、耐えて耐えて耐え続けたのだ。ああ、待ち遠しい。今にも興奮して、奇声をあげてしまいそうだ。 待っててね、実里ちゃん。今会いに行くからね。 心の中で言葉を何回も繰り返しながら、成長したあの子への想いを募らせた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

330人が本棚に入れています
本棚に追加