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それは、ゆっくりと、けれども確かに流れていた。
既に濁りの無い彼の体は魔素を受け入れ、彼色に魔素を染めあげていっている。
13年くらいのブランクを感じさせないほど、彼の体によく馴染んで行ったそれは『魔法』という形で、彼の声と共に形を変えてゆく。
「〔それは君の名残。君の欠片。君という物を作り出すための、たった一つの器〕」
辺りの人々は、黙祷して、彼の行動を見つめていた。
まるで、壇上に上がった、たった一人の指揮者の様。
彼の声と共に、茶色の数個の同士達が、メロディの様に辺りに影響し始めた魔法に溶け込んだ。
「〔大地に生かされたのなら、大地に還るが定め。その魂が、安らかに眠ることを願って――〕」
そして、それは巨大な塊のような彼らに降り注ぐ。
とても綺麗に流れる魔法。
そして、彼らをシッカリと覆えるほどの、量。
この魔法は、きっと成功する。
なんせ、僕らも手伝っているのだから。
「〔ツ・リユースヴァル〕」
“鍵”でもあるその一節。
その言葉を世界が、魔素が、魔法が聴き、そして影響を起こす。
これは、土の魔法。
体を、大地に返すための言葉。
この魔法は、人によって形容が変わる。
だからなのか……
「……綺麗……」
この人が、そう望んでいたからなのかわからない。
ピッドと呼ばれている魔物の死体は、彼の魔法が彼らに降り注ぎ、大地から木の根の様な、青黒い鉱石が生え、彼らを取り囲む。
ピッドをすっぽりと覆ったそれは、まるで木の根で出来た棺の様だった。
まだ日が出ている最中。
鉱石が光りを反射し、棺が鈍く輝く。
小細工をしたのか、所々、菊の様な花の形をしたものがあり、それは1つの作品のように見える。
そして、数十秒の間、大勢の人は思わず、それに見惚れてしまっていた。
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