森は魔物を喰うそうです

15/26
前へ
/179ページ
次へ
+  +  +  +  +  + それは、ゆっくりと、けれども確かに流れていた。 既に濁りの無い彼の体は魔素を受け入れ、彼色に魔素を染めあげていっている。 13年くらいのブランクを感じさせないほど、彼の体によく馴染んで行ったそれは『魔法』という形で、彼の声と共に形を変えてゆく。 「〔それは君の名残。君の欠片。君という物を作り出すための、たった一つの器〕」 辺りの人々は、黙祷して、彼の行動を見つめていた。 まるで、壇上に上がった、たった一人の指揮者の様。 彼の声と共に、茶色の数個の同士達が、メロディの様に辺りに影響し始めた魔法に溶け込んだ。 「〔大地に生かされたのなら、大地に還るが定め。その魂が、安らかに眠ることを願って――〕」 そして、それは巨大な塊のような彼らに降り注ぐ。 とても綺麗に流れる魔法。 そして、彼らをシッカリと覆えるほどの、量。 この魔法は、きっと成功する。 なんせ、僕らも手伝っているのだから。 「〔ツ・リユースヴァル〕」 “鍵”でもあるその一節。 その言葉を世界が、魔素が、魔法が聴き、そして影響を起こす。 これは、土の魔法。 体を、大地に返すための言葉。 この魔法は、人によって形容が変わる。 だからなのか…… 「……綺麗……」 この人が、そう望んでいたからなのかわからない。 ピッドと呼ばれている魔物の死体は、彼の魔法が彼らに降り注ぎ、大地から木の根の様な、青黒い鉱石が生え、彼らを取り囲む。 ピッドをすっぽりと覆ったそれは、まるで木の根で出来た棺の様だった。 まだ日が出ている最中。 鉱石が光りを反射し、棺が鈍く輝く。 小細工をしたのか、所々、菊の様な花の形をしたものがあり、それは1つの作品のように見える。 そして、数十秒の間、大勢の人は思わず、それに見惚れてしまっていた。
/179ページ

最初のコメントを投稿しよう!

829人が本棚に入れています
本棚に追加