試験と試練は一つの戦場である

16/44
前へ
/179ページ
次へ
「い…汚れ、ま……」 「ハンカチは使うもの。こういう時こそ使わなければ」 裏のない、自然に浮かんだ笑顔を浮かべるお父様。 そんな笑顔を、記憶の中の私は今まで見たことがあっただろうか? そして子供のように、よしよしと頭を撫でてくれるその手も…… 「も…ヒック…子供じゃ、なぃ……」 「親にとっては、子供はいつまで経っても子供。甘んじてなさい」 ――記憶の中ではいつもは忙しいらしく、執務室から出てこないお父様。 交流があるとすれば、すれ違う時に挨拶するのと、食事の時。 それ以外は、滅多に会うことはない。 今日何したのとか、そういうことはあまり聞かれず、ただ顔を合わせる時の方がほとんど。 たまに声をかけられても、当たり障り無い問いかけとかが大抵だった。 だからこうして触れられるのも、幼い頃以来の出来事のはず。 それがどうしようもなく、嬉しいと感じてしまう。 それがますます涙を流させられた。 「……どうやらタオルの方が、良かったかもしれませんね」 転生したときは、本当はどことなく嬉しかった。 自分でも、何か出来るんだろうと。 けど、実際はそうではなくて。
/179ページ

最初のコメントを投稿しよう!

829人が本棚に入れています
本棚に追加