829人が本棚に入れています
本棚に追加
「い…汚れ、ま……」
「ハンカチは使うもの。こういう時こそ使わなければ」
裏のない、自然に浮かんだ笑顔を浮かべるお父様。
そんな笑顔を、記憶の中の私は今まで見たことがあっただろうか?
そして子供のように、よしよしと頭を撫でてくれるその手も……
「も…ヒック…子供じゃ、なぃ……」
「親にとっては、子供はいつまで経っても子供。甘んじてなさい」
――記憶の中ではいつもは忙しいらしく、執務室から出てこないお父様。
交流があるとすれば、すれ違う時に挨拶するのと、食事の時。
それ以外は、滅多に会うことはない。
今日何したのとか、そういうことはあまり聞かれず、ただ顔を合わせる時の方がほとんど。
たまに声をかけられても、当たり障り無い問いかけとかが大抵だった。
だからこうして触れられるのも、幼い頃以来の出来事のはず。
それがどうしようもなく、嬉しいと感じてしまう。
それがますます涙を流させられた。
「……どうやらタオルの方が、良かったかもしれませんね」
転生したときは、本当はどことなく嬉しかった。
自分でも、何か出来るんだろうと。
けど、実際はそうではなくて。
最初のコメントを投稿しよう!