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ゴソゴソとリュックから、足りなかったらしい、黒い紐のような蔓と、虫食いにあったかのような穴だらけの草を出し、それをまな板のような薄い板に短剣で切り刻んでいく。
「見ない薬草だね。それは何の薬品になるのかな?」
「……これでも、恩は返す方なのでね。
オーロン国は奨学金や推薦でないと、高い金額が懸かる。
――その内の、一つのお返しですよ」
確かに、オーロンは貴族が入りやすいのもあって、金額は高いのだ。
救済措置として社会階級ごとに金額が変わる。
一国と称されるほどに広いため、全寮制であるためか、一部使用出来なかったり、とても質素なものになるが、平民でもそれなりに入れるくらいには、安くはなるのだ。
だが、それなりに高いと言う所は変わらない。
その上アリアと入るとしたら、“護衛”という付き添いとして入学する形となる。
そうなると、護衛のメイは、ワーズウェルト家は下流とはいえ、下級貴族と同等に近い金額が掛かるのだ。
それは、旅人としてのメイには負債出来ないものであるのだが、それを、アーゼンが出すというのだ。
生半可な返しでは、普通釣り合わない。
再びリュックからいくつかの薬草、綺麗な石を数種、そして、桜の花の形をしたドライフラワーを取り出した。
「……この花は、薬草?見たことがないが…」
「……ここから先は、他言無用で。門外不出モノですし。
……それで、俺に何か聞きたいことがあったのでは?」
ガリガリと、擦りおろし器で石を削っているメイは、アーゼンを見ずに言う。
作業しながら聞くということだろう。
アーゼンはそれを承知して、メイに聞くことにした。
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