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そんなアーゼンの心情を知りながら、メイはアーゼンに目を合わせた。
目つきが睨んでいるような感じではあるが、凄みはないため萎縮はせずに、面と向かう。
「それに……」
「…ん?」
「――『世界を見てきなさい』
母さんに、そう言われました。
そして誰かが求めてきたら手助けしなさいとも。
それにどこで何しようとも、俺が決めたことなら納得してくれる様です」
「……凄い母親だね。この異常な状態になった魔物達がいる中に、一人で旅をさせたのか」
「行ってみないかと言ったのは母さんだけど、それを望んだのは、俺です。
……それに母さんは容赦のない人です。みっちりとひたすらしごかれました」
そう言うと、調合の作業に戻る。
まるで、家族の悪口を言うな、とでも言うかのような態度に、思わず頬が緩む。
家族が大切。
そんな大人に、なりたかった。
そう思っていた、幼き頃。
いつも素っ気ないのに、家族の批判は許したくないというメイの反発を見て、どんな形であるにせよ、人として良い育ち方をしたのだと言うことが伺えた。
その事が、少し羨ましく見えた。
「……その人の教えが入っているなら、確かにアリアが上達するわけだ」
「ええ。たまに泣き言を言いながらも、しっかりやっています」
「……そうか」
どこか、哀愁漂う一言を、アーゼンは呟く。
そこからは少し間が空き、メイの作業する音だけが辺りに響いた。
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