存在とは

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「俺の読んでないやつもあるか?」 手をくいくい引っ張られるも、しっかり私に歩幅を合わせてくれる征ちゃんはとても優しい。 学校では魔王とか鬼とか言われてるみたいだけど。 「あるよ、あ…あとね、征ちゃん」 「どうした?」 でも、本当の征ちゃんは今私の目の前に居る。 私は本当の彼を知ってる、私にしか知らない彼の顔がある。 エレベーターに乗った時、少し綻んだ顔つきで、私を振り返ると、首をかしげてくる。 そんな彼にへらっと笑いかけると、私は続きを話す。 「名作。漱石のこころと、銀河鉄道の夜、やっぱり好きだなって」 「あぁ……、あの2つはいいよ、とても。でも、生憎文庫本は持ってないんだ」 征ちゃんは上を見て、うーんと唸った。 「じゃあ、帰ったらすぐ貸すねっ、お母さんが本棚にいれてくれてるはずだから、すぐ見つかるだろうし!」 「あぁ、そうしよう。もう一度読んでみるよ」 ポーン、という音がして、エレベーターの扉が開くと、私はパタパタと降りて、出口に向かう。 出口には、私と征ちゃん、2人の親と、お世話になった看護婦さんやお医者さんが居る。 「急ごうか」 「うん」 そして、私達は、その人たちの元へと向かった。
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