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その夜は、小雨模様の澱んだ夜であった。
大通りから少し外れた閑静な住宅街の中、グレーのレインコートに身を包んだ一人の男が、電柱に身を隠していた。
フードからのぞく目は虚ろであり、手入れのされていないボサボサの前髪は、雨に濡れて、額に貼り付いている。
ちらちらと街灯に照らされた口元は、ニタリと薄ら笑いを浮かべ、より一層不気味さを醸し出していた。
「清美は、誰にも渡さない。僕の清美に手を出そうとするからいけないんだ……」
キィ……
乾いた金属音と共に、男のすぐ側の一軒家の門が開いた。
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