影の恐怖 序章

4/5
前へ
/857ページ
次へ
憎い…… 憎い憎い憎い憎い…… レインコートの男は、一部始終を傍観しながら、怒りに身を震わせる。 その理由は、至って簡単だ。 男は、青年の姿を見送るその女性に、恋をしていたのだ。 艶のあるロングの黒髪を下ろし、白の部屋着を着ていても、気品溢れる雰囲気を醸し出す細身の女性…… 大和撫子とは、よく言ったものである。 話した事もないとはいえ、男が一目見て好きになったのも、無理はない。 だが、そんな男の淡い恋心は、修平と呼ばれたあの青年によって、見るも無惨に崩れ落ちたのであった。 「許さない。よくも僕の清美を……」 男は、ブツブツと籠もった声で、何かを唱え始めた。
/857ページ

最初のコメントを投稿しよう!

211人が本棚に入れています
本棚に追加