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憎い……
憎い憎い憎い憎い……
レインコートの男は、一部始終を傍観しながら、怒りに身を震わせる。
その理由は、至って簡単だ。
男は、青年の姿を見送るその女性に、恋をしていたのだ。
艶のあるロングの黒髪を下ろし、白の部屋着を着ていても、気品溢れる雰囲気を醸し出す細身の女性……
大和撫子とは、よく言ったものである。
話した事もないとはいえ、男が一目見て好きになったのも、無理はない。
だが、そんな男の淡い恋心は、修平と呼ばれたあの青年によって、見るも無惨に崩れ落ちたのであった。
「許さない。よくも僕の清美を……」
男は、ブツブツと籠もった声で、何かを唱え始めた。
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