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「宇宙ステーションができた」
女は動きを止める
男の声が虚しく響いた
「全人類は、全員これに乗る」
彼女の目は、すでに焦点が合っていない
あらゆるもの、目の前の人間ですら認識出来ないほどぼやけている
彼の言葉もどこか遠いところから聞こえてくるようで、…
分からない
見るもの全てが映画の1コマのように、まるでテレビのスローモーションのように流れていた
いつまで彼女はそうしていたのだろうか
3分、あるいは10秒だったのかもしれない
時間、というよりは、感覚と言うもの全てが無い
誰かがどこか知らない場所まで持っていったかのようだった
「……それで、○○も一緒に乗らないか?」
その男の一言を聞いた瞬間、彼女は我に返る
彼女の目には意志が宿る
強い、強い意志
「一緒に生きないか?」
あぁ、やっぱり
「……な~ん……も…」
「えっ?」
小さく呟いた女の声は彼には聞こえなかった
男は聞き返すが、それへの答えなどない
女は男に対する強い意志を堪えていた
強い、強い、負の感情
いつからか出ていた芽は大きく育っていて、大きく花を咲かせる
な~んも
な~んも変わっていなかった
彼女はりんごの潰れる音を聴いた
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