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大きな看板のある交差点。雪は五センチ程度。熱で解け始めた雪の表面はエナメルのようになめらかに輝く。太陽の逆光をバックに現われる男。見おろす先のその地面。
女は血を流して倒れている。
「くくく」と響く笑い声……。
「大きな看板」に見覚えがあった。その交差点を知っている。場所は特定できた。
だから私はこの日、学校を休んだ。
金曜日、授業は少ない。普段私は優等生なので単位は足りている。
私の場合、たんにズル休みというわけではないので、どこで見ているのかもわからない神様という存在(いるならば!)とやらも黙認してくれることだろう。
この場所で起きることを見届けたい。止められるものなら止めたい。
それが今の私の心境。
「なるべくなら血は見たくないな……」
視えて心地良いものではない。血というやつは。
午前十時半。
空の様子を見る。
朝のうちに雪は止んでいた。
「そろそろかな……」
太陽の角度、光度が未来視で視た太陽と重なる。雪の表面は徐々に解け始めエナメルに輝く。人通りはざっと見、二十人から三十人。目撃者はこれだけある。この人数が急に消えることはありえない。白昼堂々あまりにも大胆な犯行となるだろう。
さあ、来い。
私は周囲に最大限気を配った。
どんっ。
「え? 」
それは唐突過ぎる衝撃。
背中に誰かがぶつかった。
私は背中に異物感を感じながら前のめりに倒れた。
ああ……。
視た事のある光景だ。
私は私の背中を鋭利な刃物でノックしたであろう男を見上げた。
逆光に顔は見えない。
頬に雪が冷たい、その冷たさを打ち消すほどの熱さは、心臓の早鐘。
ああ。
どくどく、と。
私は気づいた。私は私が刺される未来を視たのだ……。
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