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痛みと「なぜ?」という気持ち、薄れゆく意識に、
涙が流れて、目を開けているつもりでも暗闇が襲った……。
「…………」
白い。
天井。
この匂いは消毒の匂いか。
白い布団。ベッドを囲む白いカーテン。
ここは……、病院だろう。
私は……、もちろん私だ。
つまり私は生きている。
すべて思い出した。
「あいつ……」
自分を刺したやつのことを思い出す。顔は逆光で見えなかった。
でもあの笑い声だけは覚えている。
『くくくっ』
くくくっ、だと?そんなに面白いか。通り魔め。
「いたたたた」
背中が痛い。とりあえずは回復を待つほかなさそうだ。
「来たんだ……」
ベッド脇のデスクに花瓶。花とともにカードが添えられていた。
『警察の方が十七時頃来るそうです。無事で何よりです』
文の右下に『母より』と添え書き。
母は私の無事な様子を見て早々に帰ってしまったのだろう。多忙な人だから。
「……ひどい母親だね」
どきり。
声がした。カーテン越しに誰かいる。
「入っていいかな」
どうやら私が起きたことを察知してカーテンを開けるのをためらっていたらしい。
「どうぞ」
白いカーテンをすっと開けて入ってきたのは、男だった。見覚えのない人。身なり服装を見る限り、医者ではなさそうだ。
「まずは自己紹介からかな。僕は君が倒れているところを発見して救急車が来るまで圧迫止血法を施した、たんなる通りすがりの男だよ」
私はちょっと、笑ってしまった。
初対面でそこまで細かく状況説明をするものだろうか。これは彼なりの、私に安心感を抱いてもらうためのちょっとしたトークなのだろう。その証拠に作り笑顔の彼。
大丈夫そうな人だ。私は安心した。
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