サイド小次郎

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十一月二十二日。 『白昼堂々、連続通り魔事件』。 翌朝のニュースを見て不快な気分を味わった。事件の起きたこの道は遠回りにはなるが、時間に余裕があり気分を変えたいときにはよく通る、大学へ行くときのルートのひとつだった。 起きたのは一昨日、十一月二十一日の日中。 まいったな。 物騒な世の中だ。 このニュースで良かったのは被害者が僕の通う大学の学生ではなかったということだ。もしも被害者が知り合いだったとしたら……恐ろしくて考えられない。 警察は同一犯による連続通り魔事件の線で捜査を続けるという。 ここ数日の間に起きた三つの事件に関連性があるというのだ。 手口が同じなんだろうか。詳しいことはわからないが気をつけよう。気をつけるといっても僕の場合は知人に注意を促すことくらいなのだが。 僕は自慢ではないが腕に自信がある。 古流の武術を小学、中学と続けていた。門を構えた正統な流派というわけではなく、実家にある小さな道場で親父に叩き込まれた名も無き武術だ。おかげで痩身の割に身体は強い。 さて、そろそろ講義の時間だ。 午前十時。同年代ですでに働いている友人に比べると九時まで寝ていられる僕はいい身分だな、とつくづく思う。 街の中を歩く。 出勤中のサラリーマン、OL、制服を着た飲食店の店員、買い物へ向かう主婦……。 様々な理由と意図を持って行動をする人間。 僕は大学で人間学を専攻している。マンウォッチング。もともと観察眼が優れているのでレポートや論文は教授の評価が高く、僕は将来人間心理学の研究職に就く予定だ。この調子でいけば今書いている論文を元に心理学の本も出版できると踏んでいる。また、犯罪心理学も僕は好きで独学で勉強している。 これまで世界中で産声をあげてきた連続殺人犯、シリアルキラー。その心理を知ることは人間を客観的に観るためにとても重要だと僕は思っている。 だが。 こうも身近に事件が起きると殺人という行為が本当に恐ろしいものだと感じる。 同時にその連続通り魔犯とやらに強い興味も湧く。 …………。 もしかすると今この地点から半径二十メートル以内に犯人がいるかもしれない。
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