サイド小次郎

3/7
前へ
/26ページ
次へ
人は予測しなさすぎだ。この十数人の通行人の中に今朝のニュースを観た人は一体何人いることだろう。そしてその中で「気をつけよう」と意識している人間は一体何人いることだろう。 またその中で護身術を習ったことのある人は一体何人……。 そう多くないだろう。 通行人はざっと見、二十~三十人。まったく人は愚かだ。自分自身を守る術すら知らないのだから。 『くくくっ』 …………? 静かな笑い声。 僕のわきをすれちがった男の声だ。不気味なヤツだな。 「きゃーっ!」 女性の悲鳴。 とっさに声のした方を見る。うつ伏せに女が倒れていた。悲鳴をあげたのは側にいたOL。 「……まさか!」 今僕のわきをすれちがった不気味な男の仕業、か? 急いで振り返る、がその男の背中は見つからなかった。 僕は倒れている女に急いで駆け寄った。 「大丈夫か」 背中の中央部に血がにじんでいる。僕が駆け寄ったことでOLの悲鳴が止んだ。 「救急車を早く」 OLはすぐに携帯電話を取り出し、119番。悲鳴をあげたわりには冷静だった。僕はすぐさま血のにじむ女の背中に手のひらを強く当てた。 圧迫止血法。原始的だが現時点でもっとも効果的な手当だ。 「若いな……」 女は、女の子だった。よく見るとパーカーの下に制服を着ている。その厚着のおかげか傷は深くはないようだ。手のひら越しに血のどくどくとした流れがわかる。刺されたショックで気を失ったのが幸いし、多量の出血をまぬがれていた。 不幸中の幸い。 野次馬が群がる中、交差点に救急車のサイレンが響き始める。 この子は助かりそうだ。 良かった。 『くくくっ』 あの男の声が耳に残っていた。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加