アイツは紳士じゃない。

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 案の定、峰岸ケンジはイビキをかいていた。 気持ちの良さそうな寝顔がヤケに鼻につく。  憎しみの仮面を被った山崎エリナには、普段絶対的破壊力を放つ可愛い寝顔も、今は無力化されている。 だらしなく飛び出た腹がいつもは愛らしく思えたはずが、気持ち悪い。 こんな男のどこがいいのか全くわからない。 肌が荒れ果て汚く、決していい男ではない。 そんな男に心を踊らせていた上、裏切られた事が腹立たしかった。  山崎エリナは、右手に握り締めたフォークを睨んだ。 豆電球の光を得て、光を放つ鋭利な三本の牙を向くフォーク。   全裸の峰岸ケンジの太ももに突き立てた。 グルリと固い物を掻き分けるような感覚がフォークを伝い、山崎エリナの右手に振動を伝えた。  溢れる血液。   途端に呻きを上げる峰岸ケンジ。 その声は耳を遮った。 室内を埋め尽くす声は、苦痛を訴える。 ジワジワと溢れでる血液はツーっと太ももを伝った。 ドクドク止めどなく溢れ出る血液を見た山崎エリナは、そこに生命力を感じた。  愛していた、愛している男の苦しむ姿。   それを目にした山崎エリナは我を取り戻した。 ごめんねごめんねと繰り返しながら、突き立てたフォークを抜き取り、血液の溢れ出る傷口を口で抑えた。 ゴクゴクと溢れ出る血液を舐めとると、次は絞り出すように峰岸ケンジの太ももに吸い付いた。  悪いのはアナタだから、悪いのはアナタだから、と口ずさみながらも、心の何処かではあなたと私は二人で一人。自分を傷付けても罪にならないと思いながら、チューチューと溢れ出たる血液を吸い取った。 その姿は、まるでヴァンパイア。    end,
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