アイツは紳士じゃない。

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 荒々しい息遣いの峰岸ケンジは、そのままベッドへと沈み込んだ。  絶頂を迎えた山崎エリナの口内には、粘り気のある苦味が広がり、漂白剤のような香りが鼻に抜ける。  事を済ませる度に、二人の相性は抜群だと山崎エリナは思った。 しかし、山崎エリナは峰岸ケンジ以外の男を知っている訳ではない。 峰岸ケンジは彼女に取って、初めての男である。  頭の中が白く染まり、意識が遠退きそうになりながらも、彼女は今までになく後味の悪さを感じていた。 とはいえ、苦味が嫌いな訳ではない。   寧ろ好きである。 では、何が後味の悪さを感じさせたのかを考えた。  しかしそれは、深く考える前にハッキリしていた。 濃さである。 今日の峰岸ケンジの味は普段よりも薄かった。  コイツ私という彼女が居ながら、ヒトリアソビでもしやがったな。 そう山崎エリナは思わなかった。  胸を大きく上下させながら、ベッドの上で目を瞑る彼を睨んだ。     シーツを抜き取り、それを体に巻き付けて、山崎エリナはキッチンへと移動した。    電気の消えたキッチンは闇に包まれたいて、ベッドルームから差し込む豆電球の明かりが一本だけ襖の間から射し込んでいる。    峰岸ケンジは前科持ちである。 強盗、傷害、詐欺、どれも当てはまらない。   例え、そんな前科を持っていようが山崎エリナには関係はない。  峰岸ケンジの前科とは、浮気である。 付き合い始めて、現在半年になるが 、まだ二カ月だった頃に峰岸ケンジは山崎エリナ以外の女を抱いた。  それを普段から極秘で行っていたケータイチェックで重罪を浮き彫りにする事ができた。   その時、峰岸ケンジは涙ながら土下座をして謝罪した。 その事により、寛大な心の持ち主である山崎エリナは彼を許したという過去がある。  その一件以来、山崎エリナはケータイチェックを行っていない。  涙ながら土下座する峰岸ケンジを幾度も踏みつけてやった事で、彼も心を入れ替えただろうと思っての事である。  しかし、疑惑を疑惑のままでほったらかしにしておく訳にはいかない。
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