アイツは紳士じゃない。

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「あぁ、そりゃ確定だわ」    大村カエデは、山崎エリナの言葉を遮るように、そう言った。 「でも」と、切り返そうと山崎エリナは口を開こうとしたが、大村カエデは目の前に置かれた山盛りのポテトフライを一本摘み出すと、そのまま口に放り込み、容赦なく続けた。 「つか、あんた、そんな男のコトをカレシとか言ってるけど、それって単なるヒモだよ? ヒ・モ! 絶対にーー」  モゴモゴと噛み砕かれたポテトフライが、大村カエデの口の中を舞い上がっている。  山崎エリナは、こういった行動は汚いと思うタイプの人間である。 現に、今まさに嫌悪感を覚えた。  しかし、それは大村カエデの口内の光景だけが原因ではなかった。 大切な彼氏である、峰岸ケンジをヒモ呼ばわりした事がそうさせた。  一体、この女はケンジの何を知っているだ? 私達は絶対的な愛で結ばれている。 誰が何と言おうが、ケンジはヒモではないし、例えヒモのような行為をしていたとしても、二人の間に罪は生まれはしない。 何故なら、愛し合っているから。 いや、愛なんてモノで片付けられるような関係ではない。 ケンジは私で、私はケンジ。 体は二つだけれど、二人は一つ。二人で一人なのだ。  考えてもみろ。 自分自身をつねっても、叩いても、何の罪にもなりはしない。 当たり前だ。  例えば、百人に罪になるかと問いかけたとしよう。 中にはひねくれ者がいて「自分自身を傷付ける行為も罪だ!」なんて言う輩も五人くらい居るだろう。 そして、十人は【どちらでもない】と言い、八十人は【罪にならない】を選択するに決まっている。   後の五人は未回答だ。    となれば、やはりケンジは無罪になる。  それなのに、ケンジをヒモ呼ばわりするなんて、この女頭ぶっ飛んでるんじゃないかと、山崎エリナは思った。   「ーーって、エリナあんた聞いてんの?」 「えっ? あぁ……」 「もうっ! 何よ、せっかく相談にのってあげてんのに」  山崎エリナは相談などした覚えはない。 「とにかく、一刻も早く別れるべきだね。うん。別れるべき! だって、そんな男と付き合ってたってエリナにイイコトなんてなんにもないよ? むしろ吸い上げられるね」 「……吸い上げられる?」   「そっ、吸血鬼みたいに、ソイツはエリナの大切なお金をスッカラカンになるまで吸い上げ続けるに違いないね。チューチューって具合に」
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