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玄関のドアが開かれたのは、山崎エリナが時を忘れ、ジャージの袖を通すであろう場所を股に挟み、引っ張っていた時だった。
その姿を見た峰岸ケンジは、一重の細い目を更に細めながら「何してんねん」とだけ呟き、癖毛でうねる前髪を掻き上げた。
その姿を見た山崎エリナは、クールだと素直に思った。
そんな彼が堪らなく格好いいと思う。
「腹減ってんねんけど、飯まだなん?」
峰岸ケンジはそう言いながら羽織っていた青いチェック柄シャツをベッドへと投げ捨てた。
その時、柑橘類のようなボディーソープの香りが山崎エリナの鼻をくすぐった。
違和感を感じたが、そんな事気にしている暇はない。
「ケェンジィ、お腹空いてるのぉ? ごめんねぇ、すぐ作るからまっててね」
山崎エリナは起き上がり、キッチンへと急いだ。
峰岸ケンジと狭いダイニングですれ違う時、彼の尻を舐めるように撫で上げて、お帰りのキスを交わした。
ナポリタンを作っている間に、峰岸ケンジはシャワーを浴びると言い、バスルームへと消えた。
キッチンでグツグツと煮え返っているパスタを茹でる鍋を前に、山崎エリナも同様に食後の行為について、グラグラと妄想を煮えくり返していた。
今夜は長い夜になると、山崎エリナは確信する。
そうこうしていると峰岸ケンジは牛乳石鹸の香りを振りまきながら、風呂上がりで滲み出る汗をバスタオルで拭きつつ、バスルームから出てきた。
冷蔵庫にビール冷やしてるからと言うと、返事を返す事なく冷蔵庫の扉を開けて、峰岸ケンジはクリアアサヒを取り出した。
ゴクリゴクリと喉に第三のビールを流し込む彼の喉仏を、山崎エリナは見逃しはしない。
上下する飛び出た喉仏が、堪らなく好きなのである。
「ねぇケェンジィ、今日は何してたの?」
山崎エリナの問い掛けに、スロットとだけ返答をした峰岸ケンジはベッドへと腰を下ろし、バスタオルでうねる髪を乾かしていた。
そんな男らしい姿をながめていたかったが、直にパスタが茹であがるのでそうはいかない。
彼は固めが好みなのを山崎エリナは知っている。
だから、目を離してはいられない。
「でも、いつもより遅かったみたいだけど、何かあったの?」
「別に」
「それなら良いけど」
会話が途切れた時、パスタは茹で上がった。
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