夏休みの計画

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 「千九百八十年、ノルウェイで見つかった数十体の人骨や化石は、世界中を驚愕させました。それらは生物学上、ヒトとは違う存在であると解ったからです」  日に日に暑さを増す、窓からの陽射しを浴びながら、これで、三回は聞いて、五回は聞き流しているであろう、渡辺教授の講義を受けながら、ぼくはこの後の予定を考えていた。  渡辺教授は良い先生であるし、同じ趣味を持っているので、ぼくは教授の事を嫌いではないのだが、講義の最初にいつもこの話しをするので、毎回、渡辺教授の亜人学を選択している人は、飽きてしまうのだ。  以前、何気なく渡辺教授に、何故いつも同じ話しをするのかを聞いてみた事がある。教授は笑いながら「生徒達の気を引くためさ」と言った。  受講する生徒の動機の八十パーセントが「なんとなく」の亜人学にとって、生徒の心を掴むというのは、おそろしく大事な事らしい。  「ふあ~ぁ」そこでぼくはあくびをする。  今日はあまり講義に集中できないのだ。  と、は言っても、それも今日だけは仕方ない事だと思う。  何故ならば、明日から夏休みという、学生になら一年間に一回必ず、無条件でやってくる一大イベントだからだ。
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