1人が本棚に入れています
本棚に追加
少尉も果敢に南部十四年式をぶっ放すが、所詮護身用、なかなか敵は倒れてくれない。その間にもどこからか原田が次々敵を地獄に送っていた。
「強いんだか弱いんだか分かんねぇな」
最後の一人になっても敵は攻撃を止めなかった。今までの米軍も豪軍も狙撃兵がいると分かれば一旦撤退するのがお決まりのパターンにも関わらず彼らは何故か退かない。
しばらくすると少尉の視界から全ての敵が消えた。そしてその死体の山を掻き分けて原田が帰って来た。
「やるなぁ特年!…ん?どうした?」
「少尉は敵を見ましたか?」
「いや、視界に入る前にお前が全部やっちゃったからな」
「そうですか…では見てきて下さい」
深刻な顔で話す原田に違和感を覚えながらも、刀の柄に手をあて、すぐさま抜ける様に用心しながら死体に近づいた。
「なっ…」
少尉の表情は一瞬で凍りついた。その理由は単純明快、皮と言う皮が全て剥ぎ取られていたのだ。後ろから静かに原田が近寄ってくる。
「奴ら、死ぬ前からその状態でした。一体どうなってるんでしょう…」
「分からん…と、とりあえず村に入ろう」
原田の手を引いて少尉はタロトの村へと入った。この若い特年兵は完全に放心状態になっていた。あまりに激しく移り変わるこの状況に対応しきれていないのだ。
村人は先ほどまで殺戮が行われていたとは思えぬ程明るい表情で原田達を迎えた。少尉が一度立ち寄り、村人達と顔見知りだった言うこともその一因であろう。
「ンガル・ラバタ(また世話になるな)」
「ハボト・ルガラガ・ナダンビルノ(いえいえ、勇敢な戦士を迎えるのは我々の先祖からの習わしですからの)」
少尉が現地語を話すことができた事が幸いして、しばらくタロトの村に泊めて貰えることになった。
タロトの曾長は村の外れにあるニッパハウスを自由に使うことと、食料は村の女に運ばせる旨を伝えるとそそくさと帰っていった。
「大丈夫か、原田?」
「あ、ええ…少し落ち着きました」
「とりあえず少し休め、明日からはまた進むんだろ?」
原田は背嚢から日記を取り出すと、黙々と読み始めた。少尉は呆れ顔でそれを見ているしかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!