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「少尉、ダメです!!敵が多すぎます!!」
「大丈夫だ、俺は全て思い出した。村の外れにオートバイが置いてある。そこまで全力で走れ!!」
少尉の言うとおり原田はこれまでにない位の早さで走った。化け物に追われる恐怖とオートバイで逃げられる希望が原田に火事場の馬鹿力を与えていた。
「見えたぞ、あれだ!!」
村から500メートル離れた土手に一台の側車が止めてあった。
ニューギニア特有のスコールに打たれたせいで少し錆びていたもののエンジンは難なくかかり、軽快な音を立てて走り出した。
「原田、それは使えるか?」
オートバイを運転する少尉が右足で原田を蹴った。陸戦隊の側車には軽機関銃が備え付けられていた。その為、公式文書では「機銃車」と表記されることが多い。
「館山で少々…」
「じゃあ撃ってくれないか?お客様だ」
慌てて振り向くと、相変わらずの化け物がジープやらオートバイやらに乗って追ってくる。
すかさず軽機をジープに向けるが、なんせ原田には撃ち馴れない連発銃。一向に当たる気配がない。
そんなこんなしている内にあっさり弾が切れてしまった。
「下手くそ!!どこ狙ってんだよ」
「黙って見てて下さい!!」
原田は備え付けの軽機を小銃の銃床で叩き落とすと、ボルトを引き、狙いをジープの運転手へとつけた。
「頼むから中ってくれよ」
さすがの天才狙撃手原田もオートバイの激しい振動には勝てず、引き金を絞った時には大きく下にズレてしまった。
「くそっ!!」
「おい、お前が中てないと振り切れないぞ」
ジープはぐんぐんスピードを上げ、遂には側車に体当たりしてきた。舟の外側が大きく軋む。
「だめだ!!これ以上はもたない!!」
少尉が諦めの瞼を落としたその時、ジープが急に落伍しフラフラとバランスを崩して後ろを走る敵のオートバイに衝突、爆発してしまった。
「おい原田よ」
「はい?」
「お前…何した?」
「何も…」
二人はオートバイを止め、しばらくぼんやりと見ている事しかできなかった。
「やっぱり原田か!!」
茂みの奥から聞き慣れた声と大柄の男が現れた。
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