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原田が目を覚ますと、そこは爽やかな風が吹き、小さな花の咲く美しい平原であった。
「なんだ…ここは」
「亮輔君!!」
「み、み、三佳…子」
自分を呼ぶ声に振り向くと、そこに立っていたのは彼の恋人である女性であった。
「三佳子、こんな所で何やってるんだ?」
「何やってるって、今日は亮輔君が誘ったんじゃないの」
唖然とする原田に向かって三佳子は笑顔で手招きをする。原田はそれに応じ、笑顔で彼女の元へ歩み寄る。最早、自分が戦場に居ると言うことなど当に忘れていたのだ。
「もっと近くにおいでよ、亮輔君」
「あ、あぁ」
原田が三佳子の差し伸べる手を握ろうとしたその時、鉛の塊が三佳子の額を貫通した。
「三佳子ぉぉっ!!」
「原田、そいつから離れろ」
今里が遠くから小銃を構えて叫ぶ。原田は仇を討つように今里の頭に照準をつけた。
「少尉!!一体どういうつもりです!!」
「目を覚ませ、お前がいるのはニューギニアだ。三佳子などいるはずないだろう」
「しかし、あれは確かに三佳子だ!!」
「あれはヤツの作り出した幻覚だ、あの戦法で俺達143警は壊滅させられたんだ」
今里の言葉に戸惑いながらも原田は震えるでしっかり彼を狙っていた。
「原田!!心を落ち着かせるんだ、これではヤツのペースに飲まれる!!」
「うわっうわぁぁぁ!!」
突然原田は小銃の引き金を引いた。弾は確実に今里の頭部へとめり込んだ。
「原田ぁぁ!!」
今里が額から血を吹き倒れる。するとこれまでの緑の風景は一気に崩れ落ち、血や肉塊の散乱し、死臭漂う阿鼻叫喚の風景へと移り変わった。
「なぜ気が付いた」
遠くから異様に低い声が聞こえる。この声が耳から聞こえてきているものではない事は原田にはすぐ分かった。
「心に直線語りかけているのか……」
「何故分かった」
「少尉は三佳子の名前を知らない。にも関わらずお前は躊躇うことなく三佳子と言う名を口にした。残念ながら俺の恋人の名前は三千子だ」
すると、肉塊の山からもの凄い轟音をたてて、口には説明するにできない「何か」が現れたのだ。
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