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司令部には金モール吊った参謀達が向き合うように机に座り、その最も奥に少将の階級章をつけた男が腕を組んで原田を凝視していた。
「君が原田一等水兵かね?」
「そうであります」
「噂はかねがね聞いているよ」
やっぱり突撃の件だ。原田は直感的にそれを悟った。この雰囲気では銃殺は免れそうもない。
「君の射撃の腕を見込んで頼みたい事がある」
「え?」
「君にある任務をして欲しい」
殺されるものだと思っていた為、原田は完全に拍子抜けしてしまった。更に司令の話は続く。
「今現在、我が海軍がどの規模なのか君は把握しているかね?」
「はっ…確か、我が187警を始めとする5個警備隊に舞九特の全力と呉五特の残存兵力がアロワナ街道を攻撃展開中であったと…」
「その通りだ。だが今通信連絡の取り得る部隊は187警と舞九特の一部のみなのだ。即ち…他は全て行方不明だ」
司令は静かに頭を垂れた。その表情には戦況の悪化が容易に見て取れる程悲痛であった。
原田はこんな時に「敵によって全滅では?」と言えるほど図々しい男ではなかった。
今度は横に控えていた参謀が原田に一冊の本を手渡した。
「これは?」
「今朝、舞九特の捜索隊が発見した行方不明の143警の将校の日記だ。そして君にはこの143警を始めとした行方不明の部隊の捜索を行ってもらいたい」
「あの…お言葉ですが、それは部隊単位で行えば…」
司令が興奮気味に割って入る。
「それでも駄目だから頼んでおるのだ!舞九特も今朝の日記の件以来連絡が取れなくなっておる。何故に君のような優秀な兵にこの任務を与えたのかがまだ分からんのか!」
原田は唖然とした。2500人以上が行方不明となっている密林に一人で挑めと言うのだ。
「日記は君に渡そう。きっと何かの役に立つだろう。日記の中には我々には理解できない単語がいくつかあった。その点も隊が行方不明になったことと何か関係があるかもしれん」
「頼んだぞ、原田!!」
そう言われれば「はい」としか言えない軍の掟を恨みながら原田は司令部を出た。
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