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翌朝、原田は日が昇らぬ内に司令部を出発していた。補給廠でありったけの銃弾と替えのスコープを受け取り、背嚢を背負った完全武装の形でジャングルへと入っていった。
目的地は発狂死した少尉が埋葬されているタロトと言う村だ。タロトは先日制圧した村より更に10キロ程南だ。
「要は敵がうようよいるわけだ」
原田は完全に意気消沈していた。味方がいてさえ恐ろしい戦闘を、今度はたった一人でこなさなければならないと言う使命感と、それ以上の恐怖が原田に巣くっていたからだ。
「それにしても、何でも僕なんだか…」
とりあえずはアロワナ街道を迂回してタロトへ向かう道を見つけなければならない。原田は道をわざとそらし、木々の生い茂る鬱蒼としたジャングルへ入る。
「頼んだぞ、相棒」
原田が構える小銃は通常陸戦隊に支給される三八式歩兵銃ではない。
海軍が極秘開発した三六式海軍銃と言うものだった。
装弾数は8発でボルトアクション式。射程距離は3800メートルと言う長大な物。更にボルトの組み換え次第では軽機関銃になる優れものだ。
海軍が技術の粋を尽くして作ったこの小銃は、この世にたった2丁しかない貴重な代物であった。
「ん?」
20メートル程先の茂みの中にコンクリートの様なものを確認した。
ゆっくりと身を伏せると、原田はスコープを覗こうとした。しかし、その瞬間にコンクリートから猛烈な機関銃射撃を受けた。
原田はとっさに銃を構え敵を探ったが、巧みに偽装された陣地は敵の姿どころか機関銃の所在まで消してしまっていた。
「畜生、こうなりゃヤケだ」
背嚢から軽機用のボルトを取り出し、手際よく取り替えると原田もコンクリートに向かって掃射を始めた。
「8発毎に弾倉を代えなきゃならないのは玉に瑕だなぁ」
しばらく撃ち合いをしていると、突然敵からの射撃がパタリと止んだ。
「銃身が焼け付いたのか、弾切れか……」
「敵を倒したとは考えにくいしなぁ…機関銃の位置さえ分からなかったし」
極度の緊張感と恐怖で原田は動けずにいた。敵の狙いは自分がのこのこと立ち上がってくるのを待っている様に思えたからだ。
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